ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・
電車に揺られながら、今日これから待ち受けているであろうTOEICに向けて準備は万端なはずであった。
余裕の表情を浮かべる石部は、徐にポケットから受験票を取り出し、マジマジとその字面を眺めていた。
文字群の最後まで目を通した石部は、ふとその末端に黒く、しかも大きめの矢印が残されているのに気が付いた。
石部の表情は一気に蒼ざめ、恐る恐るその中身を覗いてみると・・・
ハ、ハメられた・・・
石部は心の中で、そう呟かずにはいられなかった。なんと、写真添付欄と署名欄とが未だ埋められていなかったのである・・・。
慌てて会場の近くの駅におりた石部は、ナチュラルローソンとファミマで糊と鋏とを購入した。
これで再度「準備万端」と意気揚々とする石部。ところが落ち着く暇もなく、又も悪夢は襲いかかってきたのである。
何と―――写真のサイズが合わないではないか―――
更に都合が悪いことに、写真を切り取った後、確とこう書かれているのが目に入った。
「写真は白面が必ず埋まるようにはっきりと添付してください」
ハ、ハメられた・・・
脳髄から頻りに伝達される交感神経のうねりを必死で押さえつつ、止むを得ず石部は、最後に就職活動用にと態々スーツで撮った取って置きの写真屋仕立てを一枚取り出した。
背に腹はかえられぬ・・・
やっとのことで、各欄を埋めた石部は安堵の表情で受験会場へと赴いた。
門を潜ると、そこには今にも崩れんとせんほどの長い人、人、人・・・の雲霞が石部を待ち構えていた。
その中からポツリポツリと横道にそれる人々・・・
―――何だ。トイレか・・・
石部はそう思いつつ、その人々の行き着く先を困憊した眼差しでみつめていた。
しかし、思いがけずその行為は石部の命取りとなってしまった。本来なら不必要なはずの出費を重ね、通常の判断能力も儘ならない状態にある石部にとって、それは余りにも凄惨でかつ堪忍ならざる光景だったのである・・・
何と・・・受験票の再発行が行われているではないか―――
しかもさぞ申し訳なさそうに、予め封切ってあった受験票を黄門様の印籠の如く振り翳している。
無論、写真撮影,カット,添付その他これらに類する全ての作業がその場に一つに集約され、無償で提供されていたのは包み隠し難い事実であった。
ハ、ハメられた・・・
その瞬間、石部は甲高い叫び声が自らの脳内を駆け巡っていることに気が付いた。
そう、それは紛れも無い、自身の発狂した声だったのである。
怒りの化身となって荒れ狂う石部。
やがて石部は、その受験票が置かれていた机の縁を疾風迅雷の如く自らの掌中に収めるや否や、未だ嘗てその机を襲ったことはないであろう天地を逆様にする事態を一気に招来させ・・・
※この話は一部フィクションです。
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最後はフィクションですよね(爆)
なんかすごい面白かったです

ええ。ヘンな文庫本の読み過ぎによる影響だと思います。その名も『ドグラ・マグラ』・・・。
上・下巻があり、余りにも長く、かつ読み辛いため、読破するのに難航しています。読み始めてから半月を軽く経過しているのですが、依然上巻を読み終わるには至っていないくらいです。一日数頁しか読まないときもあり、正に“座礁”している状態です。
アレ?何の話をしようとしてたんだっけな・・・
[2006/11/28 06:25]
石部
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