病腎移植 論文発表へ 万波医師、米学会で
11月21日5時46分配信 産経新聞
病気治療のために摘出した腎臓を第三者に移植する「病腎移植」について、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師らが執筆した論文が、来年1月に開かれる全米移植外科学会の冬季シンポジウムで発表されることが20日、分かった。
同論文は、同学会の今年5月に開催された総会で発表されることが一度決まったが、日本移植学会が「万波医師の病腎移植は倫理面で問題があり発表論文として適切でない」との意向を伝えたため、発表が取り消されていた。
米学会側が今月上旬、共同執筆者である藤田士朗・米フロリダ大学准教授のところに、論文を上位10本の入選作の1本として表彰することを伝えてきた。万波医師ら執筆者側は「世界の医師らに病腎移植の有効性が分かってもらえる機会になれば」としている。
発表される論文のタイトルは『腎移植の最後の手段-生体病腎移植』。万波医師ら6人が共同執筆した。手がけた病腎移植の42症例を追跡した結果、がんに侵された部分を切除した腎臓を移植したケースで、再発がなかったことなどを紹介、病腎移植の有効性を示した内容になっている。
病腎移植をめぐっては、日本では日本移植学会などが「現時点では医学的な妥当性はない」として否定的な立場をとっている。一方で、深刻なドナー(臓器提供者)不足を背景に、米国では臓器を有効に使う手段の一つとして高い関心があり、一部では実施例も報告されていることが、今回の論文評価の背景となったとみられる。
【※以下本文】
病腎移植とは去年辺りに取り沙汰された問題であり、宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波誠医師らが腎臓癌・尿管狭窄・動脈瘤・良性腫瘍・ネフローゼといった病気で摘出された腎臓を、親族以外の第三者に移植していたというものです。
病腎移植は死者からの提供ではないため、親族以外からの提供を受けるいわゆる「生体移植」の一種として捉えられるもの。
日本では「生体移植」に関する規制として「売買」を禁じる以外に特に規制はなく、今回の病気腎移植についてもそれ自体に違法性があったわけではありません。
このときに問題となるのが、
①腎臓を移植される患者(レシピエント)が十分な説明を受けた上での同意(インフォームド・コンセント)をしていたか
という問題点のほか
②腎臓を提供する側の患者(ドナー)への「移植」に関するインフォームド・コンセントが実施されていたか
という点についても問題となります。
2006年に取り沙汰された万波医師らによる「病腎移植」については、ドナーはあくまでも「自分の治療のため」に同意を行なったのであり、「移植として提供する」ことにまで同意していたとは限らないのでは、という点で疑問を持たれました。
また、ドナーが「生存」している以上、
③本当にこれらの病気が腎臓を摘出するまでの「必要アリ」と認められるほど進行していたのか
といった点についてもげんに問題となります。
当時では、「必要アリ」と判断されるに足るものは進行した腎臓癌のみであったとされています。
そして、本論文での最大の焦点ともなろう
④再発の恐れのある「癌」の腎臓を移植したことの是非
についての問題があります。
これは「癌の再発のリスクのある移植でも同意をするか」という点で、先ほどの①レシピエントへのインフォームド・コンセントとも関わってきます。
この点に関しては万波医師は「十分説明したはず」だとしています。
倫理的な観点から、あくまでも日本移植学会レベルでの基準・安全性は最低限、確保・維持してもらいたいな・・・と思う次第ではあります(ちなみに、学会基準に反しても罰則はなく、そもそも万波氏自体学会に所属してはいなかったようです)。
しかし、そのような判断を仰ぐ云々以前に現に移植を必要としている患者が数多くいる・・・というのもまた事実です。
本来、「患者(ドナー・レシピエント双方)の生命・身体の安全を図る」ことが学会基準の目的であるとすれるならば、それに従順するがあまり、それらの利益が損なわれてしまう・・・というのもまた本末転倒でしょう。
いずれにせよ(ゴメンナサイ)、今回はアメリカに論文を発表しに行くとのことですが、「日本ではともかく世界レベルでは少しでも良い医療技術を紹介したい」というのが万波氏の意志なのでしょう。
もし「アメリカに訴えかけて認められ、日本の医療界を見返してやる」という意が如何程かあるとするならば、ちょっと複雑な気もしますが(笑)。
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